異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
あたしと彼の他に、動く人間はいなかった。
いつの間にか刺客も騎士も斬られて完全に息絶えてる。バルドの剣が紅く光ってるのは、気のせいじゃない。
黒い軍服姿のまま佇むバルドは、闇に完全に馴染んで見えた。
だけど――
嫌な感じがする【闇】とは、違う。
同じ黒色でも微妙に異なる色合いがあるように、バルトが纏う黒は完全な闇の色じゃない。
そんな闇の中で光る黄金色の双眸は、どんな明かりよりもまばゆい光を湛えてた。
「――おまえの決意は、その程度なのか?」
ガシャン、とバルドの剣が鞘に触れて鳴る。淡々として感情なんて含まれてない声なのに、まるで責めるように聞こえた。
「おまえの真の願いは、全ての命と引き替えに叶えるほどの価値があるものなのか?」
「すべての……命?」
意味がわからなくておうむ返しで呟くと、バルドはそのまま「そうだ」と返してくる。
「――おまえの命は、全ての命と引き替えに失えるほど価値があるものなのか」
「命を……失う……誰が?」
「おまえだ」
バルドは何のオブラートにも包まず、ストレートに打ち返してきた。
「うぬぼれるな。死にたければ、どこかで勝手に命を断て。
だが、おまえがその囁きにすべてを委ねるならば……」
バルトはあたしへ、剣の切っ先を向けてきた。
「オレは……今、この場でおまえを殺す」