異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
痛い。
覚悟は決めたはずなのに、それが揺らぎそうなほどの鋭い痛みが体を貫く。うめき声を押し殺すために歯を食いしばった。
血が心臓の鼓動に合わせて流れ、服がなま暖かいそれで染まるのを感じた。
だけど……
どうして?
あたしが痛みを堪えながらバルドを見ようと顔を上げた瞬間、目の前に広がったのは鈍い銀色。
ガギン! と金属同士が激しくぶつかる剣戟(けんげき)の音が響いた。
「なにやってんだ、あんたは!」
バルドの2度目の攻撃を受けて跳ね返したのは、騎士団副長を務めるハルトだった。
甲を脱いでいた彼は、バルドの次の攻撃を防ぐべく自ら斬りかかる。2人は実力が五分五分だから、つばぜり合いになると思われたのに。一旦バルドは距離を置いて下がる。
ハルトは油断なく構えながらも、あたしを庇うように前に立ちはだかった。
「……なに、やってんだよ。あんたは」
再び、同じ問いかけを向けてきたのはあたしに? 痛みを堪えながら顔を上げると、ハルトの方がよほど痛そうな顔をしていた。
「……あんたは、勝手に命を捨てて満足かもしれねえが。それじゃあセリスはどうすんだよ!」
「……!」
「あんたが死んだら、やつが命を張って護った意味がなくなるだろう! やつの死を無駄にすんのか! 秋人の想いだって……秋人は。あんたを護るために100年前に自ら飛ばされたんだ! それすら無駄にするのかよっ!!」