異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「細胞レベルで再生……ですか」
「ああ、あなたの傷は相当深かった上に出血以上の大量の失血があったからね。あのままだと命の危険があったから、“やむを得ず”に使用させていただいた。というよりも……あなたの婚約者からのたっての願いがあったから、なのだが」
ハロルド国王陛下は眉を寄せて困ったように笑う。その顔を見ていると、胸がツキリと痛んだ。
なにか……とても大切なことをあたしは忘れてる? とってもとっても大事な重大事を。
何だろう。思い出そうとすると、それを咎めるように頭に鐘のような重く鈍い頭痛が襲ってくる。
「婚約者……って、わたしの……?」
おかしい。バルドはあたしがどうでもいいはずなのに。どうして、あたしをそんなに気にかける必要があるの? バルドはアイカさんが好きなのに。
「他に、誰がいると言うのかね? あなたはディアン帝国第一皇子バルド殿下の押しも押されぬ婚約者だろう。殿下があなたを救おうとするのは当然だと思うが?」
“違います!”――そう言えたら、どんなにいいだろう。
あたしはただ偽装(カモフラージュ)のための婚約者で、バルドの心は別にあるんだって。だから、そんなふうに気遣っていただかなくてもいいと。
「そうですね……彼は優しいですから」
アイカさんには、だけど。
きっと、バルドは理想的な婚約者を演じたに過ぎない。本気であたしを心配するとかあり得ない。
ましてや、国王陛下に頼んだとしても儀礼的なもので。心底から望んだ訳じゃない。彼が欲しい女性は、今も昔もアイカさん一人きりだから。