異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……すみません。しばらく眠りたいので、静かにしていてもらえますか?」
控えてる侍女のひとりにそう伝えれば、彼女は無言で頷いて天蓋のカーテンを引いて周りの空間から遮断してくれた。
サイドテーブルにあるランタンの灯りも息で吹き消せば、ほとんど暗闇になる。集中するためにベッドに横たわると、まぶたを閉じてゆっくりと深呼吸をした。
(思い出して……あの日……何があった? なるべく詳細に思い浮かべるの)
胸の上で腕を組んで深呼吸を繰り返す。ゆっくりゆっくりと意識の中に潜って、半月前の記憶を掬い引っ張り出す。
最初に思い出したのは騎士団の訓練所でハルトとした会話だった。そう、たしか条約締結の最終段階に来てて。ハルトはアイカさんや他の王子に憤慨してたっけ。
そして……それから。
それから。
夜の闇でも輝くような銀糸の髪が、風に乗ってサラリと揺れていた。その穏やかな瞳はいつもと違って、微かに苦みを浮かべていたっけ。
「セリス王子……」
ああ、いつもの彼だ。懐かしくて頬が緩み、自然と彼の名前を口に乗せてた。
そうだ。彼は辛辣な言葉を出したとしても、いつもいつもあたしに優しかった。
あなたを護らせてくださいと……初めて言ってくれたんだ。
考えてみれば、彼はあたしがこうなることを危惧してた。帝国の望み通りにすれば、命の危険があると警告してくれた。
最初から、セリス王子は真摯でいてくれたんだ。ディアン帝国皇子の名前を語ったのだって、騙そうとしてじゃない。純粋にあたしの身を案じてくれたからだった。