異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



(そうだ……途中で大ケガをしたリデル王子を見つけたんだ)


リデル王子を放ってはおけなくて、単身で彼のもとに駆けつけた。既に襲撃を受けていた王子はひどいケガで、あのままだと確実に命が失われてた。だから、見過ごせなくて応急手当をして。そこで……小隊長の襲撃を受けて。


ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。冷や汗が浮かんで、つうっと顎を滴り落ちるのを感じた。


これ以上思い出すのを拒むように、あたしのなかの何かがブレーキを掛けようとしてる。それはきっと自分を守ろうとするゆえんだと思うけど、その膜を突き破って更に深い記憶を掬いとった。


(思い出せ……怖くても、思い出す!)


今、こんな安全な場所で横たわっていても詳細に思い出せる。握っていた剣の重みも、地面の硬さも、炎が散る熱さも。


踏みしめた地面が突然固まり、動けなくなったあたしを――。


ドクドクと鼓動が速くなったあたしは、手元に置いてあったタオルを噛む。きっとあたしは静かに思い出せないから。





“和さん……よかった。わたしは……間に合いましたね。約束通りに……”

“セリス王子、ダメ! しゃべらないで”


背中にどんどんあふれる信じられない量の暖かい液体は――血だ。


なのに、彼は微笑んだ。


微笑んだまま――そのまま力が消えていく。


パタン、と倒れた手は――


二度と、動かなかった。





思い出す。


絶え間なく手を伝い落ちるなま暖かさ。どんどん失われるぬくもり……



セリス王子の死、そのものを――。




それをはっきりと思い出した瞬間――


あたしは、声なき叫び声を上げた。





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