異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「……話は、聞いた。国王陛下がおまえに個人的な頼みごとをした……と」


ビクッと肩が跳ねた。まさか、ハルトにまでその話が伝わってるとは思わなかった。


「誤解するな。俺が個人的に国王陛下からお聞きしたことだ。だから、この話は俺と国王陛下とごく一部しか知らない」

「だったら……」


あたしはゴシゴシと拳で涙を拭い、立ったままのハルトを見上げた。


「あなただって、望むでしょう? それが可能なら。だって、誰にとっても大切な人だから……こんなあたしでも気にかけて……守ってくれるような人だから……あたし、なんかより」


泣くな、と思うのに。勝手に熱いものが込み上げる。唇を引き結んでまぶたを閉じても、じわりと滲むものは止められなかった。


「あたしが、死ねばよかったのに……なんで生きてるの!! なんで……セリス王子が死ななきゃならなかったの!
だから……あたしは……」


ギュッ、と両手を握りしめて決意を伝えようとした瞬間、口が硬いものに押し付けられて声に出すことは叶わなかった。


「……そんなこと……言うな! 俺は……少なくとも俺は……こんなこと言うと、セリスの幼なじみ失格かも知れねえけど……おまえが助かってよかったと思ってる」


ギュッと抱きしめてくれるハルトの不器用な優しさは、あたしの涙の量を増やすだけ。彼は、それ以上何も言うなと言いたげにあたしの顔を自分の胸に押し付け続けた。


「だけど……おまえがその方法を選ぶなら……俺は……立候補してやる。安心しろ、俺は捨てるような真似はしねえ。責任をとって、一生面倒見てやる」


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