異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
王族に会うのに失礼にならない程度のドレスに着替え、ハルトに連れられてその部屋を訪れた。
セリナが今療養しているのは、唯一無事だった庭園が見える内宮の一角。
大きなガラス張りのサンルームが設えられていて、雨の日も外を眺めたりできる。壁紙なんかはアイボリーに近い白で、調度品はセリナの好きなゴシック調のデザインが目立つ。
国王陛下のセリナへの配慮があちこちに垣間見えて、2人がどれだけの愛情で結ばれているかがわかる。
それだけに、ズキズキと胸が痛む。2人の息子を殺したも当然のあたしがここにいるということが。
ゆったりとしたワンピースを着たセリナは、サンルームの長椅子に座っていた。傍らには見慣れないブルネット色の髪の少女が藤の椅子に座りセリナに話をしている。
「王妃陛下、和さんをお連れいたしました」
ハルトが騎士としての敬礼を取ると、後ろに控えていた女官長がセリナに耳打ちする。ああ、と思い出したようにようやくこちらへ顔を向けたけど。
さっきは微笑みを浮かべていた口元は引き結ばれ、到底友好的とは言えない視線が注がれた。
「そう、ご苦労様でした。ハルト副長、あなたは呼ぶまで下がっていてください」
「……は」
ハルトがわずかに躊躇いを見せたのは、たぶんあたしを思いやってくれたからだろう。けれど、いくらディアン帝国の皇族の血を引いてるとはいえ、セイレム王国ではいち臣下に過ぎない彼には王妃命令に従う他ない。
あたしはありがとう、とお礼の意味を込めてちらっとハルトを肩越しに見返す。それを認めたらしい彼は、訓練された通りの動きで部屋から退出していった。