異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お久しぶりね、和さん」
和“さん”。
セリナからの他人行儀な呼び方に、胸の痛みが強くなる。
「王妃様、わたくしは……」
「いいえ、ナネットもいてちょうだい。本来ならあなたも聞く権利があるのだから」
ブルネットの少女は同席を許されるほど、セリナが心を許しているらしい。
たぶん、貴族の令嬢だろう。癖のある艶やかなブルネットの髪を緩く編み込んだまま背に流し、深いグリーンの瞳はまっすぐにセリナを案じている。
小柄で華奢な割にはしっかりと出るところは出てる。女性らしい曲線は水色のシンプルなドレスでしっかりと出ていた。たぶん、年齢はあたしと同じか1つ2つ上くらいかな。
というか、セリナはあたしをさん付けで呼んだのに、少女には呼び捨てにした。それだけで、彼女との間に深まった溝を感じるには十分だった。
「はい、王妃陛下。ご無沙汰しており申し訳ありませんでした」
あたしはミス·フレイルに鍛えられた通りに、淑女としての優雅な挨拶をしておいた。公的な場では身分が上の方から声をかけられてから口を開けば、礼儀としては問題ないはず。
「あちこちで大変な騒ぎがありましたからね。あなたも体調を崩されたとのこと……もうお身体は平気かしら?」
「お気遣い、痛み入ります。お陰様ですっかり快復いたしました」
「そうかしら?」
セリナは突然棘のある視線を和らげ、あたしを見てフッと口元を緩める。
「耳、赤いままね。どうせあなたのことだから、ご自分を責めて泣き暮らしたんでしょう?そんなに気を張り詰めてはダメよ」
思いがけない気遣いとあたしを理解してくれる言葉に、しばらく唖然とセリナを見詰めた。