異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「セリス王子は……どんなお子さんでしたか?」
「ちょっと内気ではにかみやさんだったわね。初めての王子だから、と周囲が蝶よ花よと育てたから。十辺りまでは引っ込み思案だったの」
遠い日々を懐かしむように、セリナの顔に微笑みが浮かぶ。
「本当に花や蝶なんかが好きだったわね。ナネットは幼なじみなのだけど、彼女より上手く花冠を作ってたわ」
「お、王妃様!」
ナネットさんはセリナを咎めるように、頬を染めて瞳を恥ずかしげに伏せた。
「いいじゃない、懐かしい思い出を分かち合えるのはあなただけなのだもの」
「……はい」
ナネットさんは恥じらいに満ちた表情のまま、扇で口元を隠して小さく頷いた。
「特に、なんて虫だったかしら……日本でいうホタルみたいな虫が好きだったわね。セイレムでも洞窟などにいる」
ホタルみたいな虫、と言えばあたしには1つしか思いつかない。
「ヒカリハナムシ……」
「そう、たしかそんな名前だったわね。その虫が生きるためには綺麗な水環境が必要だ、って。小さな頃からいろいろ調べて。保護するための研究もしていたわ。公務よりもよほど熱心だったわね」
ふふっ、と思い出し笑いをするセリナに、ナネットさんが相づちを打つ。
「セリス殿下はいつもお話されてました。“科学や技術を取り入れるのも大切だが、一番大切なのは生きる人たちや生き物達の幸せなんだ”……と。
民の幸せなくして国の栄えはあり得ないから、と」
ナネットさんは涙ぐむ目元をそっとハンカチで拭う。 彼女がセリス王子を慕っているのは明白だった。
だから、あたしは慰めるつもりで言葉を選びながら声をかけた。
「素晴らしいお方でしたよね。皆さんも誇れるような……」
その瞬間、ヒュッと何かが飛んできて額に痛みが走った。