異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
カシン、と床に落ちたのは――水色の扇。ナネットさんが使っていたものだったから、彼女が投げたんだろう。
なにか彼女の気に触る発言をしてしまったらしい。謝罪しようと慌てて顔を上げて、ナネットさんの視線の鋭さにギョッとした。
ナネットさんはツカツカと歩み寄ったかと思うと、思いっきり手を振りかぶってあたしの頬を打った。
バシン、と結構大きな音が響くと、目に涙を浮かべた彼女はそのまま興奮気味に喋りだした。
「あなたが……セリス殿下のことを口になさらないで! あなたのせいで、セリス殿下は亡くなったのですよ!!」
「……申しわけ、ありません」
あたしはただただ頭を下げて謝るしかない。けれど、ナネットさんはなおもこちらを責めてきた。
「どうして……どうしてあなたのような方をセリス殿下は庇ったのですか!? あの方は……たくさんの人びとを救えましたのに。必要とされてる方々はたくさんいらっしゃる。そこのところはお分かりなのですか!」
ドンッ、と拳で胸を叩かれた。ナネットさんは、俯きながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「わたくし……だって。あの方の妃となる日を指折り数えて待って……なのに! なぜ、あなたが生きていて、セリス殿下は死なねばならなかったのですか! あなたが……死ねばよかったのに!!」
「……!!」
ハッキリと憎しみを載せた緑色に睨まれ、体が動かない。ナネットさんは両手を拳にして交互にあたしの胸を叩く。それは、とても弱々しい打撃だった。
「返して……わたくしのセリス殿下を返して!!」
「ナネット、もうその辺になさい!」
さすがにセリナが彼女の肩を掴み、引き剥がされたけれど。
ナネットさんの叫びは、みんなの声そのものだ。きっと、みんなあたしに言いたかった言葉で……。
彼女の声は、いつまでも頭の中で木霊し続けた。