異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
第26関門~ただの、夢だ。
ざーざーと激しい雨音だけが空間を満たしてる。
雨に打たれずぶ濡れのあたしが思い切って出した言葉は、バルドにどう受けとめられたかわからない。
前に一度チャンスはあったのに、自分から拒みとおしておいて今さら何だと怒られる覚悟はしていた。
でも……それでも。
たとえ何を言われたって、あたしはバルドに。彼に契約をしてもらいたい。
ただ一度、それだけでいいから。それだけであたしは巫女として生きる。全てを断ち切って。
「……おい」
後ろからハルトの声が聞こえた。彼を撒いたつもりだけど、やっぱり訓練を受けてるから無理だった。ハルトは大きめの傘をあたしの方にさすと、鋭い声で訊いてきた。
「和、どういうつもりだ? 巫女としての契約を持ち掛ける意味は解って言ってるのか!?」
「……わかっ……てるよ」
後ろを見ないまま、あたしは視線を落として答える。バルドがどんな顔をしているかなんて、怖くて見れなかった。
「……契約は……生涯をともにする覚悟をしなきゃいけない。でも……でもね、いいんだ」
きゅっ、と唇を噛みしめる。
「あたしは、幸せなんてなれなくていい。だって……そういう運命だから……きっと。誰かを不幸にしてばかり……死にたかったよ。消えれば古代兵器だって動かないもんね。
だけど……あたしを思ってくれた人たちの想いは無駄にしたくない。あたしの命は勝手に絶っていいものじゃない……なら。
誰かの幸せのために生きよう……って、決めたの」