異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「なら、俺でもいいだろう!」
ハルトは傘を放り投げると、両手であたしの肩を掴んで自分へと向かせる。
「何度も言っただろ、俺だったらおまえを放り出さないと。ぜってえ守る! 一生そばにいてやるし、何だってくれてやる。おまえが望むなら、何でも叶えてやる!」
ハルトの両手があたしの頭と体に回り、力一杯抱きしめられた。
その力強さと逞しさに、揺るぎない強い意思。きっと、きっと彼の手を取れば幸せになれるんだろう。
あたしの望みも、きっと叶う。彼は宣言通りに一生そばにいて守ってくれる。
だけど……
“あなたが死ねばよかったのに!”
ナネットさんの悲痛な叫びが、胸を引き裂いて重い痛みをもたらす。
あたしは、幸せになんてなっちゃいけない。誰かを不幸にしかできないなら、独りで生きるしかない。
そして、自分のぶんまで間近な人に幸せになってもらおう。それが叶ったら日本へ帰る……。
雨に打たれながらの告白は、頬を熱くした。嬉しかったし、鼓動も速くなる。
嬉しかった。
ハルトがあたしを心底想って言ってくれたってわかったから。
だから……
だからこそ、あたしは。
受け入れちゃいけないんだ。
「ハルト……ありがとう。そんなにいってくれて。気持ちはすごく嬉しかった。だけどね……」
握りしめた両手を開いてハルトの胸に当てると、そんなに力を入れなくてもあっさり彼の体が離れる。彼の顔を見上げながら、精一杯に微笑んでみせた。
「あたしは、独りで生きるって決めたの。だから……ごめんね」