異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「それから10年が経ちますが、エークはある程度の数を生産できるほど技術が進みました。今まで馬や徒歩での移動が当たり前だった荒れ地で、大幅に移動時間を短縮できるようになったのです。
それは、彼が強い意思で自分を信じて努力を重ねた結果、です。 もしも途中で諦めていれば帝国の国民は未だに徒歩での移動を強いられていました。
彼の開発のお陰で帝国の道路の整備も進みました。
様々な地形の帝国内を移動するには困難と時間が必要でしたが、今や土地によっては従来の十分の一の時間で行き来できるようになったのです」
「……そう、だったんですか」
知らない人の苦労話を聞かされても、すごい人だなあとしか思えない。もちろん、口にはしないけど。
けど、たぶん……。
セリス皇子はこの話をしたことで、あたしを励ましたんだと思う。諦めるなって、遠回しにだけど。
何に対する励ましかはわからないけど、と考えていると。いきなりふわりと体が浮いて驚きのあまり固まっていると、お尻に硬い感触を感じた。 と、同時に視界がずいぶん高くなったと気づく。
「少しだけ、乗る練習をしておきましょうか」
背中に大きな存在を感じて、ドキッと心臓が跳ねる。ゆったりしたローブに身を包んだセリス皇子は華奢に見えたけど、胸板が厚くて体が硬くて……やっぱり男性なんだって思う。
視線もあたしより高いし、手綱を取るため前に回した腕に囲われてると、柄にもなく心臓がバクバクして頬が熱を持つ。
断りもなく勝手に乗り物に乗せるなんて、案外強引かもしれない。