異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
怪訝そうなハルトの声に、もしかして本気じゃないと受けとめられたか、と頭にきた。
「本気に決まってるでしょう! 巫女の役割を果たしたら日本へ帰るけど。帰っても、結婚なんて絶対しない。お母さんのお墓を守って生きていくから」
「おまえ……」
ハルトが言葉を失ったように呆けた顔になって、なんなの? と苛立ちが増す。さっきと違う何か微妙な空気に、何が言いたいの? とイライラした。
「言いたいことがあるなら言って。今ならちゃんと聞くから」
「いや……だっておまえ……あいつに斬られて死にかけたんだろ? それなのに申し込むのもおかしいが……治療を施したのが誰か、忘れたのか?」
「そんなの忘れてない! ハロルド国王陛下でしょう。ちゃんとお礼は言っておいたよ」
「……それで、おまえ……マジで言うのか?」
ハルトは髪の毛をガリガリ掻いてはぁ~と盛大なため息を着いた。なんかムカつく……ハルト、すっごい可哀想な子を見る目だし。
「おい、おまえも聞いただろう? セリナ王妃陛下の事情を」
「セリナの? もちろん聞いたけど」
「だったら解るだろ? 王妃陛下が帰れないわけを。それでおまえは」
「和」
ドンッ、と胸の内側から叩かれたくらいの衝撃だった。
バルドが……自分のその声で、あたしの名前を呼んだ。たったそれだけなのに、全ての神経が彼に向かう。
感覚のぜんぶがバルドに集中して、他のなにもかもがかき消えてどうでもよくなる。
とらわれる――バルドに。
自然と目を向けたあたしに、バルドはただひと言「入れ」とだけ告げて窓を閉めた。