異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「セリス王子は確かにあたしを守ってくれた。そばにいてくれるって、好きだって言ってくれた……正直嬉しかったし、心がぐらついたのも否定しない……だけど」
それを話すのは勇気を振り絞らなきゃならなかった。でも、あたしはちゃんとバルドに伝えなきゃいけない。
「だけど、あたしはやっぱりダメだったの。あたしが求めるひとじゃない……って。だって……あたしは」
“あなたが好きだから”――って、伝えたい。今すぐこの場で言えたら、どれだけ楽だろう。
だけど、言えない。
それだけは、伝えちゃいけない。
だって、あなたは異世界のひとで帝国の皇子。
あたしは日本人で平凡な庶民。
2人はただの偽りの婚約者。
そして、あなたには大切な最愛のひとがいる。
あなたの幸せを願うなら決して告げてはいけないこの想いは、自分の胸の奥底に沈めて封印する。
けれど……これだけは、伝えたかった。
「バルド……あたしね」
いつの間にかバルドの手から解放されていた腕を、彼の体に回す。上半身を軽く起こして、体を寄せて……抱きついた。
「この世界に来てできた一番大切なひとは、バルド。あなただよ。出会えてよかった……って思う。ありがとう……今までそばにいてくれて」