異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
后……?
誰が?
意味が理解できなくてぱちぱち目を瞬いてると、ヒスイがまたため息をついた。呆れたというか……哀れな眼差しを向けたのはあたしに?
「……なんであたしを可哀想な子だって目で見るのよ」
《鈍すぎて呆れただけじゃ。ふつう、あれだけ言われれば自分だと理解するものじゃろが》
「……え、だって……あ、あたしはただの偽の婚約者で」
《きっかけは仮初めであろうが、そなたはバルドの精を受け入れ正式な契約をかわしたのじゃぞ》
「そ……そうだけど」
まだ渋るあたしに業を煮やしたのか、ヒスイはすっくと立ち上がって肩を怒らせる。
《ええい、うじうじみっともない! 女なら腹を括らんか。女は度胸じゃぞ。バルドはそなたの命運を賭けることも出来ぬ相手と見くびるか!?》
「そ、そんなことない! だけど……だって……バルドはアイカさんを。それに……あたしは別に愛されてるって訳じゃない……」
バルドから与えられた熱が醒めてしまえば、冷たい現実が降りかかってくる。
そうだよ。
バルドはあたしが喜ぶようなことを言ってくれたけど、あれこそまさに夢だったのかもしれない。
あたしの願望を叶えただけの、ただの白昼夢。
うつむいて手足を縮めると、バルドは再びあたしのお腹をがっちりホールドしてきた。