異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「アイカとは、もう何もない」

「……?」


あたしはどうしてバルドがそんな話をするのか、と疑問に思いながら黙って耳を傾ける。


「おまえが行け、と言った後にアイカに見舞いがてら話に行った。“もうオレに頼るな”――と」

「え……?」


バルドの発言が信じられず身体をひねって彼を見ようとしたけど、どうしてかまた首筋に顔を落とされてキスをされた。熱い吐息に、身体がちいさく跳ねる。


「……アイカは、昔からわがままだった。子どもたちの間では女王のように君臨して、すべて自分の思うままにしなければ不機嫌になる。侯爵令嬢として何不自由なく溺愛して育てられた」

「………」

「いつからか、可憐さを装い男に媚を売ることを覚えた。病弱を装い、男の良心や庇護欲をそそることを。それにまんまと引っかかったのが、幼なじみの公爵。オレが幾ら止めても構わず、アイカをめとり妻とした。それからだ、公爵家がおかしくなったのは……前当主がアイカに入れ込んだ挙げ句、事故死。奥方は嫉妬のあまりに自殺した」

「えっ」


「前当主……つまり今の公爵の父は、奥方に離縁を申し渡していた。まだ40過ぎて女盛り、魅力的でよくできた何の罪もない奥方を。前当主はアイカに溺れるあまり愚かな決断をしたのだ」

「……それって」


何だか近ごろ似た話を聞いた。あたしが思わずヒスイを見ると、彼女はうむと頷いた。


《そうじゃ。アイカは男をたぶらかし、混乱させておる。おそらく意図的にな》


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