異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




そして、彼はそっとあたしの髪を指先ですく。


「とても美しい髪ですね……あなたによく似合う」

「そ、そうですか?あたし……髪はよく褒めてもらえたんです。お母さんや……おじさんたちに」

そう話してふいに悲しくなり、押し黙ったあたし。けど、セリス皇子はそのまま頭を撫でてくれた。


「とてもよい親御さんだったのですね」

「そう、そうなんです!
お母さんはサバイバルが、おじさんは物作りが得意でした。そんな2人からいつもいつも言ってもらってました。“なごちゃんはかわいいな”“キレイな髪だから将来美人になるぞ”って。実際、こんなんになっちゃいましたけど……何の取り柄もない女に」

「そんなことありません。あなたを見ていれば、ご家族がどんなに素晴らしい人だったか。どれだけあなたを愛しておられたかがよくわかります。ご自身をそんなに否定なさらないでください」


そして首を横に振ったセリス皇子は、そっとあたしの手を握りしめてきた。


「……まだ、私には言えないのも仕方ないと思います。昨日今日で信頼しろと言われても無理な話でしょう。ですが、いつかあなたが話したい時に話していただけたら……私は、そう思います」


こんなとっておきの光景を見せながら懇願するような皇子の声に、頬が熱くなり鼓動が速くなる。これがときめきなのか……まだ幼いあたしにはわからなかった。


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