異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
オレは、なに?
ドキンドキンと速い鼓動を感じながら、バルドの次の言葉を待つ。
彼があたしをどう思っているのを教えてくれるの? そんな期待をしたんだけど。
それからのバルドは口をつぐみ、押し黙ったままあたしを抱きしめた。
バルドが黙ってしまった数分後、業を煮やしたらしいヒスイが声を上げる。
《まったく、どいつもこいつも……なぜにそう臆病なのじゃ!》
ダン! とヒスイがベッドのマットを踏み鳴らす。どうやら実体化してるみたいだ。
《きちんと言葉にせねば、伝わるものも伝わらぬじゃろ! セリスの方がよほど男気にあふれておるぞ!このヘタレ皇子が!!》
ヒスイに叱咤されたにもかかわらず、バルドは尚も言葉を紡ごうとしない。
もしかして……やっぱりあたしを妃に、なんて嫌なのかな? ってネガティブな考えが胸に湧いてくるけど。
バルドが口にしないなら何かの事情があるんだろうな、とあたしは思う。
(彼にばかり言わせようとするのも卑怯だよね……でも)
あたしは本当の気持ちは決してバルドに告げまいと固く決めてた。一方的な想いを彼に告げてしまえば、彼を困らせることがわかってたから。
仮初めでも婚約者の身で、しかも水瀬の巫女の立場で告白すれば、彼は拒めないかもしれない。
帝国が必要としている巫女という身分が、彼を縛り付ける楔となってしまうから。バルドには否応なしに応じる選択肢しかない。そんなふうに義務での繋がりほど悲しいものはない。
アイカさんと相思相愛だった誤解は解けたけど、彼女を知った時はバルドが愛する人と思ってたから。なおさら告げるわけにはいかなかった。