異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「オレは、二度と離さないと言ったはずだ」
「う、うん……」
「だから、おまえを斬った。二度と日本へ還さないために」
「は?」
だからって……一連の流れから、どうしてバルドがあたしを斬ったから日本に還さないという話になるのか、全然意味がわからない。
斬った傷は今ならきちんと治ってるし、痛みも後遺症もない。それでどうして離さないとか、日本へ還さないという大事になるんだろう?
「あの……あたしは別に……無理してそばに置かなくていいよ? 責任だとか義務でとか。そんなのお互い悲しいし虚しいだけでしょう。だったら……」
《ここまで鈍ければ、いっそすがすがしいまでの愚鈍ぶりじゃな》
ヒスイまでもがあたしに半目を向けてくる。ムカついて睨み付けてやった。
「なによ! 愚鈍って……あたしはそんなに鈍くない」
《どこがじゃ? そなたとてセリナが帰れぬわけを聞いたじゃろうが》
「また、セリナの話? ハルトといい、なんなのよ。もちろんちゃんと聞いた! ハロルド国王陛下の治癒魔法で、瀕死の怪我が治ったんでしょう。だけど、時間軸が違うからってセリス王子が……」
そこまで話して、ようやくヒスイが何を言いたいか気づいた。
「あたしは……ハロルド国王陛下の治癒魔法……使われた」
呆然と呟くと、うむとヒスイは頷いた。
《そうじゃ、バルドはそなたをこちらへ留めるためにわざと斬ってハロルドの治癒魔法を受けさせたのじゃ。すさまじいほどの執着心でな》