異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「深呼吸をして、ゆっくり浸かるんだよ」


ハロルド国王陛下の導きで、儀式が始まった。


まずは人肌程度の暖かさの水色の液体に満たされたガラス製の器に入る。ちょっとSFめいてるけど、これは身体の機能を維持してくれる魔術が掛けてあるらしい。


バルドの手を離すのは不安があったけど、いつまでも彼に頼りっぱなしではダメ。この儀式を望んだのはあたし自身なんだから、きちんと責任を持ってやり遂げないと。


ハロルド国王陛下が朗々と呪文を唱え続け、神官が彼のサポートをする。水底に緑色の魔方陣が現れて、その光が反射しガラスの中がキラキラと輝く。


「きれい……」

《ぼうっとしておるでない! 集中せねば失敗するぞ》


水面に浮いたまま呑気なことを言うあたしに、ヒスイからの叱責が飛んできた。


「そうだね。失敗すれば君の命にも関わるから、もう少し落ち着いてくれるとこちらも助かるよ」


追加でハロルド国王陛下からもたしなめられ、ばつが悪くなってコクコクと頷いた。


(だって……これから仮にでも臨死体験しちゃうんだよ。怖くないって言ったら嘘になりますって)


けど、あたしはちゃんとセリス王子を戻すんだ。


指示通りに深呼吸をした後、目をつぶり水に身体を沈めていく。


膝を抱えた姿勢で、自分の存在に集中して……水の音と自分の鼓動を感じる。


あたたかい……


ひどく懐かしい気持ちになって、水の中なのに全然苦しさを感じない。


やがて、あたたかい何かにふわと包まれたまま。身体が軽くなりスッと独りでに浮かんでいった。


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