異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



あたしは気力を総動員して顔を上げ、キッとレヤーを睨み付けた。


「それどころじゃないでしょう! 今は、セリス王子を連れて帰ることを最優先しないと。呑気にお饅頭食べてる場合じゃ」

「そのように焦って、セリスが戻ってくるものか? 違うじゃろ。もっとゆったりと構えて物事に動じぬようにせねば、后など務まらぬぞ」


ヒスイの冷静というか多少辛辣な言葉は真理かもしれないけど。それにしたって、いろいろ突っ込みどころが多すぎだって。


「あたしはあんたと違って、単なる一般人ですから。しかも17年も生きてないし。そんな図太さ持てません……ってか。后なんて……」


あり得ないし、と言おうとしたところで、ちゃぶ台の上にいつの間にかネズミが顔を出してた。


「あら、ネズミちゃん。お菓子食べる?」


退屈しのぎに自分の分の饅頭を少しだけちぎり、ちゃぶ台の上に置いた。


ネズミくらい、黒い例のGに比べたらマシですわよ。ぬいぐるみが動いてると思えば可愛いもの。ましてやこのネズミは汚れてない。ふさふさのいい毛並みで、いい匂いがする。ペットに飼われているのかも。


黄金色の毛を持つネズミは、フンフンとお菓子の匂いをかいでから、両手で欠片を持ってかじり始める。せわしないけど、ちょこまか動く様がとっても愛らしい。


「美味しい? もっと食べよっか」


思わず頬が緩んでお饅頭を次々とあげる。お腹がいっぱいになったのか、ネズミはチュウと鳴いてあたしの体をよじ登る。


ネズミは肩に乗ると、二本足で立ち上がりフンフンとあたしの耳元や口元の匂いを嗅ぐ。毛がくすぐったくて笑ったけど、何故かヒスイが半目でこちらをじ~っと見てるのに気付いた。


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