異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「なに?」
「いや、鈍いもそこまでいけば立派なものじゃな……と思うてな」
ほとんど白眼で言われても、意味わかんないし。
「なによ、もう……あ、こら!」
ネズミはあたしの着てる巫女服……(ノースリーブノーカラーの白いワンピース)の襟ぐりに頭を突っ込み、何やらわさわさ動いてる。そして、そのまま潜り込んだかと思うとごそごそ動き始めた。
「ちょ、……くすぐったいって、ネズミちゃん! ひゃあ!!」
最初はただ気まぐれに動いてたのに、気のせいか胸の辺りでごそごそされてる。いや、まさかね……だって、ただのネズミだし。
そう考えてしばらくガマンしてたけど、そのうちネズミが怪しげな動きをしだした。
ささやか過ぎるけど、一応ある胸に……触れられたような?
「ちょ、ネズミちゃん! いい加減に」
巫女服に手を突っ込んで引っ張り出そうとした瞬間、バチン! と青白い光が見えて、ネズミが勢いよく吹き飛ばされていった。
は? とあたしが呆然と見ていると……
飛ばされたネズミはヒスイが手にしてたお盆にべちり、と叩きつけられた後。
ヒスイはそのまま、お盆を反転させて畳に叩きつける。
ぷち。
虫を潰すような見事な音が聞こえた。
「え、ちょ……ヒスイ、あんたネズミを殺したの!?」
信じられなくて何度も口をパクパクさせてから、やっとそれだけを訊いた。
「大事ない。こやつであれば殺しても死なぬ」
ヒスイがお盆をあげる。血が飛び散ったホラー……と覚悟をしたのに。
ピラン、と潰され薄く引き伸ばされたネズミが風に乗ってぴらぴらと畳に落ちただけだった。