異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。





「相変わらずですねぇ、大神様は」


こういう時には一番に騒ぎそうなレヤーでさえ、至って冷静にそんなことをおっしゃる。


……って、ちょっと待って。


「レヤー、今なんて言った?」

「はい? “相変わらずですねぇ、大神様は”と言いましたが」

「いやいや、待って。大神って……一体どこに?」


あたしはきょろきょろと首を巡らせながら、レヤーに訊いた。

だって、ここにいるのはあたしとヒスイとレヤーと。それから潰されてペラペラのネズミだけ。お茶を出した天女はとうに下がっていったし、お屋敷を守る神は外だし。


「これじゃよ」


ピラン、とヒスイが指でつまみ上げたのが、紙より薄く潰れたネズミ。真円に潰れてるのは何だかシュールだ。


ペラペラ、と風に吹かれて今にも飛んでいきそうなネズミ。それを見て、ヒスイの言葉を受け入れようなんて無理でした。


「は? ヒスイ、今なんて?」

「じゃから、コレが極光明徳大神じゃ」


いかにも穢らわしいものに触れるように、人差し指と親指の先っぽだけで摘まんだヒスイは、フッと息を吹き掛けてネズミを飛ばす。


すると、見る間にネズミの体がポン!と膨らんで復活を遂げた。


《おう、久しぶりじゃな、翡翠之御上どの》


ちゅう、とネズミ姿の大神はちゃぶ台によじ登り、お煎餅をかじり出す。


呆然と見てたあたしは、恐る恐る訊ねた。


「あ……あの~……本当に……大神様でいらっしゃいますか?」

《いかにも。ワシが極光明徳大神と呼ばれるものじゃ。そなた、魂呼(たまよ)びに訪れた者じゃな》


手を止めたネズミがジッとこちらを見詰める。すべてを見透かす光に、動くことができなかった。


《ふむ、そなたは神に通ずる巫女の血筋じゃな……世の王なる者の子孫か》
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