異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「……おいしい!」


おっかなびっくり口にしてみれば、 なんとも不思議なことにとてもおいしかった。
甘すぎずくどくなくて、適度な酸味が食欲を刺激する。喉ごしもトロリとして、何かの種がプチプチと噛めるから食感も楽しめた。


程よく冷えてるから飲みやすい。気がつけば、あっという間に飲み終わってた。


「ありがとう……これ、ほんとおいしかった。最初はめちゃくちゃだと思ったけど。よく作るの?」

「……母上がよく作ってくださった」


ボソッとバルドがそんな話をしてくれたから、一瞬耳を疑った。


まず、今まで自分のことはほとんど話してくれなかったバルドが、自分のプライベート……それも身内のことを教えてくれるだなんて。あまりにも意外だったけど、嬉しくて思わず顔がほころんだ。


「なかなかダイナミックなお母様なんだね。ジュースを握力で作り上げるなんて」

「もともとは武家の長女で騎士であったからな。毎日鍛錬は欠かさず、オレも幼い頃から散々叩きのめされた」


バルドは無表情を崩さなかったけど、いつも鋭い瞳の光がわずかに和らいだ。きっと、お母様が好きなんだろうな。


「へえ、騎士を務めてたなんてカッコいい。憧れちゃうな」

「やめておけ。母上はオレを生む直前まで、砂浜ダッシュや湖での泳ぎ込みをするような猛者だ。危うくオレを水中出産するところだったのだぞ」

「……なかなかハードな毎日なんだね」


あたしは妊娠の経験がないからわからないけど、一般的な話を聞く限りは出産直前って安静にするものじゃないの? それとも、この世界の出産はそれが当たり前なんだろうか?


なら、あたしはちょっと無理だと呑気に考える。ま、そんな機会はないだろうけどね。


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