異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「必要だから、した。それだけのことだ」
バルドはサイドテーブルのそばにある椅子に座ると、腕を組んであたしをじっと見た。
「あんな程度で音を上げるようだったら、途中で置いていっただろう」
「じゃあ、あたしも頑張ったかいがあったんだね」
あの時はすごく大変で、正直な話つらかったしきつかった。何でこんな目に遭うのかって、夜中に泣けて逃げたくなったのも一度や二度じゃない。
だけど、負けん気で頑張った。自分が持っているものはあまりに少ないから、せめてどこまでも食らいついてやるって、根性だけは見せてやるつもりで。
倒れるように眠る日々だったけど、あの毎日があったからバルドの信頼を得られたのかな? って。自分なりに都合のいい受けとり方をしてる。
「おまえだとて、母上に負けず劣らず無謀なやつだ」
「え?」
バルドの手が、あたしの髪に触れる。出会った当初より僅かに伸びたそれは、2人で重ねた時間を表しているみたいだ。
「帰ったら……また伸ばせばいい。きっと似合う」
ゆっくり、ゆっくりと彼の指があたしの髪をすく。無骨で節くれだった、きれいとは言えない手だけど……
あたしは、好き。
剣を握る、その手が。
たくさんのものを守ってきた、その手が。