異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
さすがに典医までは随伴してきていなかったので、バルトの侍従長のヒルトさんと外交官を通じて極秘にお医者様を呼んでくれた。
もともとセイレム王国は魔法大国であり、医療の分野でも突出して優れている。ロゼッタさんが1ヶ月で復帰できたのも、この国の医療水準の高さによるものが大きい。
あたしも時間がある時は医療施設を訪問したこともあったけど、日本の病院のような真っ白な床や天井なんて味気ない施設はひとつもない。基本的に一軒家のような、民家と見間違えそうな造りが多かった。
(セイレスティアではユズもティオンバルト殿下と無料の診療所を開設してるみたいだし、やっぱり医療施設は大切だよね)
ディアン帝国では医療水準はあまり高くない? あたしが調査で訪れた郊外の村や集落ではよくて薬師がいるくらいだった。
一応、医者は一定期間の修養と見習い期間が必要で、地方ごとの試験に受からないと名乗れないみたいだけど。国土が広大な上に医師不足で、詐欺まがいに名乗る人が後を絶たないと聞いた。
(きちんとしたシステムが必要かもしれないな……うん。バルトは主な内政と外交とで忙しいかもしれないから、医療と福祉分野であたしが知ってることをいかせたらいいな)
「和さま?」
名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
目の前には白いローブに身を包んだ髭を生やしたおじいちゃん先生が困惑したお顔でいらっしゃいまして。
いけない、いけない。今は診察を受けてるんだった! 慌てて姿勢をただしておじいちゃん先生を見た。