異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「はい……その……実は……3ヶ月目辺りらしいんです」
「体調を崩した彼女を心配してカーライル医師に診ていただいたところ、懐妊が判ったんです」
「まあ、とてもおめでたいことね。ねえ、あなた」
「そうだね。このところ心が塞がるような知らせばかりだったから、久しぶりに気が晴れるよいニュースだ。おめでとう。後ほどセイレム王国からもお祝いを贈らせてもらうよ」
セリナの明るい声に微笑したハロルド国王陛下は、セイレスティア王国王太子夫妻にお祝いを告げた。
「ありがとうございます」
国王夫妻にお礼を返したティオンバルト殿下は、お腹に手を当てた妃を優しい目で見守る。より真っ赤になったユズは、しどろもどろに言葉を紡いだ。
「あの……本当に、まだ信じられないんですけど。ここに……赤ちゃんがいるなんて。
でも……やっぱり。じわじわと嬉しくなって。すごく幸せだなぁって思います……やっとあたしもこの世界に受け入れてもらえたんだって。この世界で生きることを許された、そんな気持ちもあるんです」
気心が知れたいい人ばかりだから、ユズも不安を明かしたんだと思う。特に同じ日本の女子高生だったあたしとセリナに。
いくらティオンバルト殿下に愛され、みんなに必要とされていても、自分は異なる世界の人間で。本来ならばここに存在してはいなかった。その心許なさや、不安感や焦燥感は体験しないとわからない。
この世界で生きていいのか、といった疑問はいつもつきまとう。一度納得しても繰り返し湧き出して決して決着がつかない負のスパイラル。
セリナは……25年もずっとこんな中で生きてきたんだ。
すごく、強いな。改めてそう思う。