異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「オメデト~ヨカッタデスネ」


一人だけ棒読み口調でお祝いを言ったのが、ルーン王国のカイル王子だった。


「ちぇっ、この中で僕だけが独り身じゃないか。つまらない~」


ぶすったれて王子に似つかわしくない態度を取る彼だけど、セリス王子の幼なじみでこのセイレム王国に留学してたんだし、セリナからはあたしの話を聞いて育ったんだ。それだけにくだけたこの気安さも納得できる。


「あらあら、カイルには侯爵令嬢との婚約話があったのではなくて?」

「そんなの、と~っくに断りました! だってその女、僕を隠れ蓑に騎士である恋人を護衛としてそばに置くつもりだったんですよ? 自分の血を引いてない子どもを後継ぎにさせられそうになった時の恐怖ときたら」


青くなってぶるぶると震えるカイル王子に、訊ねたセリナも苦笑いをしてた。


セリナもカイル王子も優しいから何も言わないけど、本来ならここに一番居るべき人がいない。その喪失感は、何をしても埋まらない。


その存在に触れるのを避けているのは、あたしのためなんだと思うと申し訳ない気持ちになる。


カイル王子がわいわいと騒いでる中で、気分が落ち込んでしまうのはどうしようもなかった。

……というか……ねむい。


食べ物をお腹に入れたからよけいに。




「……でも。和さえ了承してくれたら、一緒にルーン王国へ来てくれてもいいんだよ。ねえ、和……和?」

「え、は……?」


カイル王子に何度も呼ばれてから気付いた。一瞬、気が遠くなったのはたぶん眠気と貧血の両方のせいだ。

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