異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



武人らしい無骨な手なのに、バルドはひどく優しくあたしの頭を撫でて髪をすいてくれる。彼の広い胸に顔を押しつける形になって、やっぱりこの腕のなかがいいんだって実感する。


ホッとする。


彼と一緒にいるとドキドキするけれど、それ以上に安心して何もかもを委ねることができる。どんなことがあっても揺るがない大樹のような存在感。その中に包まれる安堵感は何にも代え難い。


やっぱり、この人でよかった。この人でないと嫌だ。


他にどんないい人がいたって、バルドの代わりなんてできない。あたしにとって、唯一無二の存在なんだ。


こわごわと、ためらいながら彼の身体に手を伸ばす。何度か葛藤を繰り返しながら、やっぱり誘惑には逆らえなくて。バルドの背中に腕を回した。


何でも、言って良いって。よくわからない気持ちもぶつけてこいって、言ってくれた。


それが、どんなに嬉しかっただろう。


まだ妊娠を実感できないけれど、体調は最悪で気分もたびたび乱高下する。そんな中で自分でもどうしようもないほど、感情をコントロールしきれない時がある。


いいのかな、って思う。


こんなくだらないことを言って呆れられたり、嫌われたりしないかなって怖くなる。 わがまま過ぎるし些細なこと過ぎるかなとか。


だけど、たぶん。


バルドは怒らない。


返事はあんまり期待できないけど、きっと彼は何があっても受けとめてくれる。その度量の広さはあたしの想像を遥かに越えてた。


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