異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。







出発する際、体調を考えてあたしは馬車を使うことになった。今回は体のこともあるから、ミス·フレイルも同行する。


けれど、ギリギリになって予想外の人が出張ってきた。


「ご一緒してよろしいでしょうか? 一人だと心細くてなりませんの」


扇の向こうでたおやかな笑みを浮かべるのは、ハルバード公爵夫人のアイカさん。彼女は繊細なレースをふんだんに使った薄桃色のドレスを着て、ベールがついたつばの広い帽子を被ってる。控えめな露出でも、その見事な肢体は隠しようがないですな。


「夫が国境の町まで迎えにきてくださるのですけど、近ごろ物騒な出来事ばかりですわよね? ですから、厚かましくも妃殿下に同行させていただけたら安全かと」


もっともらしい言葉ですらすらと理由を話すけれど、つまるところ、自分の身の安全のために一緒に帰らせろということ。あまりにも非常識な理由で、開いた口が塞がらない。


『ミセス·ハルバード。いくら公爵夫人と言えど、妃殿下との同行を自ら申し出るとは非常識を通り越し、不敬に当たるとは思いもつかないのですか?
いいえ、そもそも公爵夫人が妃殿下へ先に言葉をかけること自体が不敬にあたります。お控えなさい!』


ミス·フレイルがキツイ目付きでアイカさんを叱りつけた。すると、アイカさんは肩を震わせたかと思うと、ぶわっと涙を流して項垂れた。


「そ……そうですわよね。申し訳ありません……わ、わたくし……お茶会等で妃殿下とお話していただき……厚かましくもお友達と思っていましたけれど……わたくしの一方的な思い込みでしたのね」


顔を覆って静かに涙を流すアイカさんは、見た目だけならば十分儚げな印象を与えられただろう。

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