異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



馬車は向かい合わせの席になっていて、あたしとロゼッタさんが進行方向で。アイカさんとミス·フレイルが向かい側に座る。


ロゼッタさんはひと言も喋らないけれど、最大の警戒をしているのが解る。失礼にならない程度にアイカさんを見据えてた。


馬車が動き出す前、馬に乗ったバルドが様子を見に来た。アイカさんはバルドにさかんに話しかけていたけれど、彼はあくまで公爵夫人に対する慇懃な態度を崩さずにいた。


“なにかあればすぐに伝えろ”ってあたしの目に語りかけてきたから、無言で頷いておいた。


以前レヤーが教えてくれたけれど、あたしの左手首にある翡翠の腕輪に強く願えば、一番助けて欲しいひとに通じるらしい。


出会って間もない頃にバルドが贈ってくれたこの腕輪は、何度かあたしを助けてくれた。


初めて目にしたときは、まさかバルドとこんな関係になるなんて思いもしなかったな。


バルドはいったいどんなつもりであたしにこれを贈ったんだろう?


“ずっとおまえが欲しかった”


唐突にバルドと結ばれる前に囁かれた言葉を思い出して一気に頬の熱が上がった。


(わ……わ! あたし何を思い出してるの。ここにはみんないるのに。あんな、は、恥ずかしいことを……)


別に思考を覗かれるわけでもないのに、恥ずかしさのあまりに両手で顔を覆ってひとりで身悶える、なんて余計に怪しげな行動を取ってしまいました。


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