異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
アイカさんが嫁いだハルバード公爵家は、始皇帝の親友が始まりだったはず。
ディアン帝国が120年前に建国された際、初代皇帝のそばで一番に尽力した人物だと歴史書にはあった。 だから、宮廷での重みは他の貴族との比べ物にならないって。
そんな名家で貴族出身でないアイカさんが公爵夫人となれたのは、現在の当主である夫と幼なじみという要素が多分に関係してる。
たしか、彼女はカミワーダ家出身。カミワーダ家は商人である彼女の父が一代で築いた豪商の家で、もとは難民の出という噂もある。
もちろん、あたしは彼女がどんな出身でも構わない。あたしは人を生まれ育ちでフィルターにかけて見るまいと決めてる。
だって、あたし自身が母子家庭だの私生児だのと陰口を叩かれてきたから。
幼い子ども時代、表向きは差別されなくたって、大人たちの発する微妙な空気や向けられる眼差しから、彼女たちの言わんとすることは察せた。
近所のお上品なおばさまからは“母子家庭で保育園に通う子とは遊ばせたくない”なんてハッキリ言われたこともあったし。
人間というものは子ども本人がどうしようもない生まれや環境で差別を受けるんだって身に染みて理解してる。
だから、あたしはアイカさんの出身は気にしない。あたしが信じるのは目の前にある事実――彼女本人を見て、感じたこと。表明だけでなく、深く理解してから人となりを評価しようと思う。
他人からの噂で左右されるような決めつけではなく、彼女自身と直に言葉をかわしともに過ごして、ちゃんと自分で決める。