異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
国境の街へ入って今夜泊まる施設の応接間に落ち着いた時、護衛していたハルトはポツリと呟いた。
「俺はここまでだな」
セイレム王国側から護衛にと派遣されていたのは、騎士団副団長のハルト。彼は護衛責任者として同行してきたけど、翌朝あたし達が出発すればお別れになる。
この2ヶ月あまりともに過ごしてきたけど、間近にいすぎて別の国の人間ということを忘れてた。
「そっか……そうだよね。ハルトはセイレムの人だもんね」
すこし、残念な気持ちがあった。体調が悪い中で秋人おじさんに似たハルトと話すこともいい気の紛らわし方だったのに。
だけど、いつまでも特定の男性と親しくすることは良くない。あたしはバルドの子どもを身籠っているんだし、公私の区別をつけないと。
「……今まで本当にありがとう、ハルト。助けてもらえてとても嬉しかったよ」
「いや、大したことはしてない。それより、気をつけろよ。ディアン帝国に入ったら俺にはどうしようもないからな」
「うん……気をつける」
応接間にはあたしとハルトの他に、ミス·フレイルとロゼッタさんがいる。ミス·フレイルははしたないと眉をひそめてはいたものの、少しだけだからと黙ってもらった。
きっとこの機会を逃せば、もうハルトとは話せなくなる。次に会えるのは何年後かになるかもしれないから、短くてもきちんと挨拶をしておきたかったんだ。
「これ」
ハルトは軍服から一冊の薄い手帳を取り出すと、あたしに手渡した。
「秋人が持ってた手帳……やっと渡せる時が来た。ディアンへ帰ってから読むといい」