異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
ハルトはそれ以降、立場を越えて話しかけてくることはない。本来ならそれが当たり前だけど、ちょっぴり寂しく思いながらあたしも彼に関心がないように振る舞う。
(本当に、ありがとう)
心の中でハルトにまたお礼を言っておいた。
バルドとともに、国境を護る常駐部隊の司令官とこの地方を任されている伯爵との挨拶を済ませる。
どちらも好意的な態度でホッとした。だって、ディアン帝国は数年前に国境紛争を起こしている。この街も軽微とはいえ被害を受けたんだから、かつての敵となった国の皇子を迎えるのはよい気分ではないだろうに。私情を交えず友好的に接して下さる。きっと、今回の外交で結んだ不可侵条約が効いてるんだ。
(期待を裏切らないようにしないとね)
こちらもなるべく友好的に、相手を尊重しながら接した。友好国としてこれから長い付き合いになるのだから、機嫌を損ねるような真似は慎まないと。
それにしても、とあたしは気になってた。
(ディアン帝国はたびたび国境紛争を起こしているけど……まさかバルドが関わってたりしないよね?)
伯爵と司令官が去った応接間で考えているうちに、どうしても訊きたくなって口を開いた。
「あの、バルド……ちょっと気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
ソファで隣に腰掛けるバルドは皇子としての正装をしてる。いちいちかっこ良くて、ドキドキしながらも訊かなきゃと勇気を振り絞った。