異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドはしばらく大人しくあたしのされるがままにされていたけど、その立場が逆転していたと気付いた時にはもう遅かった。
バルドがあたしを腕の中に閉じ込めて、身動きできないようにがっちりホールドされた直後。しっかりと唇を奪われてしまいました。
「ちょ……バルド、んぅ」
いつの間に立ち直ったんですか! と小一時間問いつめたくなるほど激しく貪られて。気を失いたくなる直前やっと解放された。
どろどろに溶けきる前の頭のなかは、当然真っ白でございます。 思考能力を奪われたあたしの耳に、淡々としたバルドの声が入ってきた。
「ここを出たら、翡翠宮には戻らない。直前帝都へ向かう」
「え……あ、うん」
ぼんやりしたまま解ったって頷くと、バルドはより一層あたしの体をがっちり掴んで離さない。どうしたんだろう? って、心配になって顔を上げて彼を見た。
「……バルド、だいじょうぶ?」
「ああ」
短く返事をしたバルドは、あたしの肩口に顔を埋める。やっぱりおかしい、と戸惑うと。バルドはポツリと漏らした。
「帝都には、母上がいらっしゃる」
「え……そうだったの?」
今の今までバルドがお母さんの話をしたのは一度きりだし、それ以外は全く話題にもしなかった。だから、てっきりもう亡くなってらしたと思ってたんだけど。