異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「なら、あたしもご挨拶しなきゃいけないよね? きちんとできるように、ミス·フレイルに特訓してもらわなきゃ」
「ああ、それがいい。母上は大概皇帝陛下のお側にいらっしゃるからな」
バルドから許可を得られて、せっかくだからと訊いてみた。
「帝都でいらっしゃるってことは、お妃としてだよね。皇帝陛下のお側なら、皇后陛下であられるのかな」
「いや、母上は最初に皇子を生んではいるが、立后はしていない。皇后は二番目の妃で弟を生んだ方がなられた」
だが、とバルドはどこか苦みを感じさせる口調で断言する。
「父上のそれは英断だったと今となっては思う。でなければ、おそらく国はもっと乱れていただろうからな」
「……?」
バルドの言い様に、どこか引っかかりを感じる。母親のことを話した時は、決して悪し様に言わなかったのに。今は、どこか嫌悪感すら混じってた。
だいたい、母親が皇后になってた方が嬉しいし、力を得るのに近道のような気がするのに。なんでバルドは自分のお母さんを否定するような言い方をするんだろう?
「バルド、なにかあったの? お母様が皇后になれなかったのに……よかったって聞こえる」
「そうだ」
バルドはきっぱりと断言する。あたしが言葉を継げないでいると、彼は静かに話した。
「……母上は……オレが十の頃には変わられた。事実上皇后のように振舞い、専横を極めている。ディアン帝国が好戦的になり戦争を繰り返すのも、母上が変わられた頃からだ」