異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……お母様が?」
「ああ」
バルドは苦々しい顔をしたけど、決して目を逸らさずに話してくれた。
「母上はもともと騎士として仕える立場だったが、父上……現皇帝陛下のお命を救ったことから見初められ、第一の妃となった。オレが幼い頃はお二人はまだ仲睦まじくあられて、母上も明るい笑顔をよく見せていらしたが……」
「それが、バルドが10歳辺りで変わっちゃったんだね。原因はわかってるの?」
バルドの腕の中で彼を見上げれば、彼は「ああ」と短く答えた。
「オレの勝手な憶測だが、おそらく父上が次々と妃を迎えたからではないかと思う。今は皇后となられた第2妃が後宮に入られた時は、その方と仲良くしようとされてたからな」
後宮、だなんて耳慣れないのに日本人には無縁でない言葉が出て戸惑う。
日本では近代まで後宮制度があって、権力のある人は複数の妻を持つのが当たり前だった。
一夫一妻が法律上でも常識でも当然の現代日本人からすれば、そんなの受け入れられない人が多数だと思う。
あたしだって……
バルドが他にお妃様を迎えるなんて言われたら、すごく嫌だ。他の女性に同じようにキスをしたり、抱きしめたり……考えただけで気分が悪くなる。
バルドのお母様が耐えられなくなった気持ちがよく解るよ。
大好きな、自分にとって唯一無二のひとは他の女性へ同じように愛をささやいて。自分と同じ愛され方をするなんて。 おかしくならない方がすごい。
しかも、第一の妻とは言えそれを咎めたりすることは許されない立場。それでも第2妃様と仲良くしようと努力しようとしたなんて。本来は素敵な人なんだ。