異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
だけど……。
もしも愛が憎しみに変わってしまったら。
愛憎は表裏一体のものだから、愛が深ければ深いだけ憎しみも増す。そうなれば、憎いだけの相手との子どもなんて邪魔に思うのかもしれない。
人の気持ちなんて儚いもの。変わりやすくて、確かなものなんて何一つない。
なら、今のバルドのお母様は復讐をしているということ?
(だけど……やっぱり許しちゃいけないことはある)
ディアン帝国が好戦的になったのは、バルドのお母様が傍若無人な振る舞いを始めた頃だと聞いた。
なら、多数の犠牲者を出した国境戦争の責任は、バルドのお母様にもある。
バルドは、止められなかったと悔やんでる。お母様が起こした戦争のせいで。
(お母様は償うべきかもしれない)
言わば一個人の私怨のために、ディアン帝国も近隣国も甚大な被害を出した。いくらお妃様でも、してはいけない領分を侵してしまったんだ。
その辺りはきっちりすべきだろうけど、あたしは気になってたことをバルドに訊ねた。
「バルド、あなたはたしかアイカさんやハルバード公爵と幼なじみだったんだよね?
なら、アイカさんやハルバード公爵とお母様はどうなの?」
「……アイカは……母上のお気に入りの一人だ」
バルドは重い息を吐き出すように、ゆっくりと話し出した。
「アイカとハルバード公爵……セオドアだけは、いつでも近くに寄れた。だから、母上に用件がある時はどちらかへ取り次ぎを頼む。やつらがいなければ、おそらく母上はオレと一切関わろうとしなかっただろう」