異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



バルドの初恋の人だし、幼なじみだし、それに。あたしに親切にしてくれた。その恩を忘れたくない……だけど。


セイレム王国で見せた勝ち誇ったような笑顔、庭園で睨みつけてきたこと。ダダ漏れだった内心。あらゆる男性を虜にしてたこと。……そして、あの甘ったるい香りの謎の赤い霧。


アイカさんを完全に“いいひと”にするには、気になる点が多すぎる。


思い込みを排除して、冷静に見守る必要があるかもしれない。


それと、あたしはアイカさんの旦那様である公爵についてほとんど知らないと気付いた。


馬車の中では揺れて気分が最悪だったから、自分の話をするだけで彼女の話を聞いてる余裕はなかったし。今のうちに訊いておこう。


「バルド、セオドアさんについて訊いていい?」


ただ、本当に何気なく訊いただけなのに。


周囲の温度が一気に下がったように感じたのはなんでだろう?


ぞわっ、と背筋が冷たくなって身動ぎすれば、後ろであたしを抱きしめてるバルドからの拘束が強まった。


「……なぜ、やつを知る必要がある?」


抑えぎみではあるものの、地を這いそうな低い声はやめてください。今にも誰かを瞬殺しそうな殺意に満ちてますよ。



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