異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「セオドアは、オレとは正反対で物静かなヤツだった」
「だった……?」
バルドはそれだけ話すと、わずかに口元を歪める。自嘲のようにも、苦々しい笑いにも見える。
「セオドアは生来の性格で言えば、虫も殺せない穏やかで優しいやつだった。絵を描くことが大好きで、やつの父が呆れるほど覇気がなく、たびたびオレの母上に預けられては泣いていた」
「たしか、バルドが6つの時に沙漠のど真ん中に置いてきぼりにされたんだよね。そんな鍛え方を同じようにされたの?」
ひ弱な男の子にそれは……死ねと言っているようなものじゃ。
ていうか。大人でも無理だよ。灼熱の沙漠で身一つで放り出され、自力で帰ってこいなんて。あたしが受けた訓練はつくづくマシだったと思えた。
「いや、さすがに母上も手加減して、セオドアを谷底に置き去りにして自力で這い上がれ。でなければ水も飲ませないと」
「いや、それ! 全然手加減してないから」
ちょっと! なに、そのスポ根マンガ真っ青なハードさ。十にもならない他人の子どもを、谷に置き去りにして自力で帰ってこいって。
手加減して、それ!?
どれだけサバイバルが大好きな親子ですか、あなた方は!
「ちょ……バルド! 頼むから自分の子どもまで同じようにしないでよ」
とんでもないことだと訴えたのに、バルドはあたしを抱えたまま呆れたように見た。
「オレがそこまですると思うのか?」
「そうなの? てっきり……自分の子どもにも同じように鍛え上げるかと」
ホッと胸を撫で下ろすと、バルドがポツリとこぼした。
「せいぜい、国境の街に置いてきぼりにするだけだ」
……………。
全っ然、懲りてませんね。アナタは!