異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……だが、今のセオドアは別人だと考えろ」
「別人?」
あたしがおうむ返しで訊ねると、バルドは「ああ」と短く返して目を細めた。
「十になるまでのやつは、本当に優しい子どもだった。だが……アイカと急速に仲を深めていった途端に様変わりした」
それ以上、伝えるのは辛いのかもしれない。兄弟同然に育った幼なじみで親友の豹変。それがいい方向ならともかく、きっとよくない方へ変わってしまったんだろう。
あたしはバルドの胸にトン、と顔を寄せて彼に呟いた。
「今、無理に話さなくていいよ。知りたい気持ちはあるけど、バルドにだっていろんな想いがあって難しいなら……話せる時まで待つから」
ちょっとだけ、と彼の胸にもたれかかる。甘えるのは苦手だけど、バルドにはもっと甘えろと言われてる。ためらいながらだけど、彼に身体を寄り添わせた。
フッとバルドが息を吐いて、彼の身体から力が抜けたのを感じた。緊張が和らいで、強ばってた筋肉が弛緩してる。
「……いや、話しておく。セオドアは突然、公爵の跡取りとして努力を始めた。やつの父も舌を巻くほどに努力をして、跡継ぎとして認められたのが15の頃。そして16の年にやつの父が急死し、セオドアはその若さで公爵家を継いでそのままアイカと結婚をした」
「ずいぶん若い頃に爵位を継いだんだね」
「ああ……しかし。前公爵の死因には不自然な点が無ければ、ただの同情話で終わっただろう」
「……不自然?」
今度はあたしが目を細める番だった。父親の死で若くして公爵家を継いだセオドアさん。その死因に疑惑があるとすれば、決していい意味じゃないだろう。