異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「やつが来た」
続きを聞きたかったけど、そう呟いたバルドの顔が引き締まる。彼はストン、とあたしを隣へ下ろした。
すると、ドア越しに侍従長であるヒルトさんの声が聞こえた。
『失礼いたします、バルド殿下。ハルバード公爵がお目通りを願っておりますが、いかがいたしますか?』
ハルバード、という名前を聞いて心臓が跳ねた。噂をすれば影、を地でいく登場の仕方ですね。
「構わん、こちらへ通せ」
バルドがぶっきらぼうに答えると、承知しましたとヒルトさんの返事がきて。しばらくしてからドアが開いた。
「お初にお目にかかります、妃殿下。私はセオドア·フォン·ハルバードと申します。以後、お見知りおきを」
あたしへ向かい膝をついて挨拶をしたのは、アイカさんの夫であり現ハルバード家当主のセオドアさんだった。
どんな人かといろいろな想像をしてきたけど、金髪碧眼の完璧な王子様タイプじゃないですか。ぶっちゃけバルドは人相が悪いから、並ぶと王子様と護衛に見える……なんて想像はしてませんよ、ハイ。
紺色の軍服を身に付けたセオドアさんは、細身ではあるけど引き締まった体つき。ウェーブを描く柔らかい金髪は完璧なブロンド。鍛えてるのに肌が白いのはうらやましい……。
あたしの手を取ってごく自然にキスをするなんて。お主、やるな! と現実逃避しかけた。
だって……こんな淑女めいた扱いなんて、今までほとんど受けたことはありませんよ。やっぱり憧れるじゃないですか。
とはいえ、ドキドキもしませんけど。
いくらアイカさんと並んで見劣りしない美丈夫でも、あたしにとってはやっぱりバルドの方がかっこいいもんね。