異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
なるほど、とあたしはバルドの言いたかったことが解った。
目の前にいる男性は、幼い頃は絵ばかり描いていたひ弱な少年には見えない。
軍服を着ていることからもわかるけど、軍務に携わる立場にあるからかしっかりと鍛えられた身体つき。長身と相まって、自信に満ちた空気が嫌味なく似合ってる。
ハルバード公爵は防衛大臣の補佐をしていて、老境に入った大臣が数年のうちに引退するからその後を継ぐとも聞いた。
(となると……元帥で最高司令官である皇帝陛下にも進言できる地位にはあるわけか)
今の地位には数年前から就いているとなると、国境戦争の件も関わった可能性は高い。
いくらバルドの幼なじみでも、警戒は解かない方がいい。
セイレム王国をあんな混乱に陥らせたあたしが言えることじゃないけど、それでもやっぱり。国境戦争を起こしたことは許しちゃいけない。
「警戒なさってらっしゃいますね」
「え?」
ドキッと胸が鳴った。
いつの間にかセオドアさんがあたしの数十センチ手前に立って、顔を覗き込むように身を屈めていたから。
彼は、あたしの手のひらをまだ持ったままだ。引っ込めようと力を込めても、どうやら簡単に離すつもりはないらしい。
(このひとは……)
その、青い瞳は綺麗に澄んで見えた。
だけど――
あたしには、濁って見える。
どす黒いなにかが、彼から感じられる。
たぶん、それは水瀬の巫女としての力だ。それは自然に理解した。