異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



渓谷って……あの、断崖絶壁の!? 少なく見積もっても、100mの高さがありそうな谷なのに?


「ちょ……なに言ってんのよ! あんな谷に飛び込んで無事でいられるの? 飛べるレヤーに乗ってるあたしはともかく、ロゼッタさんは無理でしょ」

「大丈夫ですよ」


あたしの抗議もどこ吹く風のハルトに憤慨していると、セリス皇子が宥めるように理由を説明してくれる。


「もともと、様々なパターンの作戦を立ててありました。この渓谷の地形や地質を利用した、とある作戦です。少なくともわたくしはあなたとロゼッタさんを確実に助けたい……心底そう思います。
ですから、どうかわたくしを信じていただければ」

「………」


セリス皇子の真摯な瞳を見ていると、嘘偽りを言っているとは思えない。少なくとも彼は、あたしの気持ちを重んじてくれてる。今回は命の危険があるから仕方ないけど、素人のあたしができることは素直に従うだけ。


「わ、わかりました……」


あたしが頷くと、セリス皇子はフワリと微笑んであたしの髪を優しく撫でてくれた。


「いい子ですね」


彼の指が触れたのは髪なのに、どうしてか顔が熱くなって心臓がうるさく鳴った。なんだろう……これ? 息が詰まったみたいな胸の苦しさもある。


ふわり、と香ったシトラス系の薫りは、セリス皇子の香水? そういえば、あの……ヒカリハナムシを見た時にも香ってた。それを思い出したら、よけいに心臓がドキドキしてきた。


(な……なんなのよ、これ。意味わかんない)


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