異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



ドキドキドキドキ。


(ううう……は、恥ずかしいよ)


バルドの腕に囲われて身体を密着して。すごく安心感があるし、嬉しいんだけど。やっぱり……恥ずかしすぎますって。


思わず両手で顔を隠す形になっていたけど、バルドがあたしの耳元に低い声で囁いた。


「おまえのお披露目の意味もある。顔を上げて堂々としていろ」


バルドの言葉に、はっと自分の立場を思い出す。


バルドは、あたしを唯一の妃にしてくれると言ってくれたんだ。それはつまり、あたし以外バルドの妻にならないわけで。


有力な皇太子候補の妃になるのに、こんなところで恥ずかしがってる場合じゃない。彼に相応しいように、シャンと背筋を伸ばし威厳のある柔らかな笑みで……威厳が出せるかはともかく。臆してちゃ駄目だ、とまずは顔を上げて前を見た。


道の両側を埋める観衆は予想以上の人数で、歓声もものすごくお腹に響きそう。冷や汗が背中を流れるけど、女は度胸だ! と顔の表情筋をフルに使い、笑顔を作り上げる。不自然にならないように、精一杯愛想がいい笑いを。


……ラーメン屋のバイトでの経験が役立ったよ。


ラーメン屋の店長、ありがとう。シフトを月に29日も入れたりといろいろイビってくれたけど、笑顔と挨拶に言葉遣いは役立ってます。


(あたしは、バルドの妃になる。ならきちんと役割を果たさないと)


女は度胸、ついでに愛嬌。


なるべくひとりひとりの目を見てニコッと微笑みかけてたら、久しぶりで顔がひきつりそうになった。条約締結の凱旋パレードも無事に終盤を迎えた――はずなのだけど。


< 646 / 877 >

この作品をシェア

pagetop