異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。





『ああ』


バルドがポツリと返事をすると同時に、彼の身体から力が抜けたようだった。


(よかった……あたしの気持ちが伝わってくれたんだ)


10年ぶりに実の母親に会うんだから、緊張するのも無理はないけど。やっぱり血を分けた親子なんだし、幼い頃はむしろ仲がよかったなら憎からず思ってたはず。その感情をお母様にも思い出して欲しい。


「ね、お母様のお名前はなんておっしゃるの?」


今さらながら大切なことを聞き忘れてたと気づいて、急いで訊いてみた。その瞬間、バルドの口元がピクッと動いた。


(え、あたし変なこと訊いちゃった? でも、お母様の名前……いずれ知らなきゃいけないよね)


だけど、かすかにだけどバルドの緊張が高まってる。もしかすると触れちゃいけなかったのかな? と心配になるころ、バルドが口を開いた。


「母上の名は……アスカ、だ」

「えっ」


……今、何か純粋な日本名が聞こえた。不思議に思えてキョトンとバルドを見上げると、バルドは自虐的な笑みで囁いた。


「アスカ·ジャン·カスガ。それが母上――皇帝陛下第2妃の正式な名前だ」


バルドがそう教えてくれたすぐ後――アスカ妃の姿がはっきりと見えるほどの距離まで近づいた。



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