異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
アスカ妃は艶やかな黒髪を頭頂で緩く束ね、金色に輝く花を模した髪飾りを挿してる。女性にしては体格がいいのは、騎士をしていた名残だろう。
ほどよく焼けた小麦色の肌を晒し、身体を包むのは白いセパレート水着みたいな露出の多い民族衣装。あちこちに色鮮やかな染めが入り、赤いマントを首もとから肩に流してる。顔立ちは確かにバルドに似てて、かなり濃い異国ふう。
何だか笑顔もなくて冷ややかな視線を感じたけど、その硬い表情が和らいだ。
『アスカ様!』
エークに跨がるアスカ妃に先に駆け寄ったのは、同じくエークに乗ったアイカさんだった。
『おお、アイカか。ずいぶん沙汰がなかったが、元気そうで何よりだ』
『はい! セオドアの勧めでセイレムで療養したのがよかったのですわ』
『そうか、それはよかったの。そなたが元気にならばわらわも嬉しい』
アイカさんと話すアスカ妃は優しくて柔らかな、母親そのものの顔をしていた。女性にしては大きな手でアイカさんの頭を撫で、彼女から『子どもじゃないんですよ!』と拗ねられて苦笑いをしてた。
『すまぬな。わらわのなかでアイカはいつまでも子どもなのだよ』
『アスカ様、わたしはこれでも子持ちなんですのよ! 人前でそれは困ります』
『おやおや、そのように拗ねれば頬をふくらますのは子どもでないと言えるのか?』
『そ、それは……もう、アイカ様ったら。意地悪過ぎますわ!』
『すまないな、アイカはからかいがいがあるから、ついつい』
『ついじゃありませんよ~』
2人の親しげなやり取りを眺めてたけど、何だか胸が痛くなった。