異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドがあと数mという距離まで近づいてるのに、アスカ妃はこちらを見ようともしない。
アイカさんとは娘のように仲睦まじいのに、実の息子には目もくれないなんて。
(あり得ない……いくら嫌っていたとしても、他人の目がこれだけある中で息子――皇子を無視するの? 仮にも皇帝陛下の后ならその影響を考えるべきじゃない)
皇族の不和や不仲は火種になる。必ず利用しようとする輩が現れるからだ。
今、ディアン帝国は他国と不可侵条約を結び戦争を防ぐ政策へと転換を計ってる。今まで散々戦争のメリットを甘受してきた人たちにとって、生命線を断たれたようなものだ。
特に軍需産業や軍事関係者にすれば、ビジネスチャンスや出世の機会が奪われたんだ。そういった人たちにとって、不可侵条約を結び推進する立場のバルドは邪魔。アスカ妃との仲違いを利用されたら、とんでもないことになりかねない。
あたしは、ギュッとバルドの腕を掴んだ。ゴクリとつばを飲み込んでから、すうと息を吸ってお腹の底から声を上げた。
『アスカ·ジャン·カスガ妃殿下、初めてお目にかかります。わたしは、アキツキ·ナゴムと申します。あなたのご子息でいらっしゃる、バルド殿下のフィアンセです。よろしくお願いします!』
たぶんあたしの声は何十mもの範囲で響いたと思う。
観衆の目が一斉にこちらに向いたから。
ラーメン屋の店長、ありがとう。店の隅から隅まで響く挨拶の訓練が今役立ちました。