異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



そこで初めて、アスカ妃の目がこちらに向いた。


バルドと同じ、金色の瞳。やっぱり親子なんだと吸い寄せられるように見入った後、アスカ妃がエークをこちらへ寄せながら腰に手をやるのに気付いた。


(まさか……そんな。仮にもバルドは息子だよ。そんなのあり得ない)


必死に、否定しようとした。


こんなにも大勢の国民がいる前で。


こんなにもたくさんの臣下が見てる中で。


実の息子の、皇帝陛下の皇子に……まさか。


いくら、憎かろうと。嫌っていようと。


母親として、騎士として、妃として、皇族として、貴族として。


そして、何より――人間として、あり得ないし。あっちゃいけない。


あたしは、願った。


どうか、アスカ妃がバルドに気さくに声をかけて下さるようにと。


今は表面だけでもいいから、仲違いを悟られないために。もし知られていたとしても、皇妃として相応しい振る舞いをして下さると。


だけど……。


その、無機質な宝石のような瞳は。冷ややかな光そのものの刃を抜いた。


アスカ妃の腰からスラリと抜かれたのは、半月刀。幅が広くて反り返ってるそれを、彼女は近づいた瞬間躊躇なく振り下ろしてきた。


しかも、明らかにバルドに向かって。


彼は、母を見据えたまま動こうとしない。


「駄目!」


あたしは咄嗟に、バルドを守るために身体を投げ出す。



目の前で、火花が散った――。



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